左右で見える大きさが違う【事例紹介】アニサイクルレンズ
こんばんは! プラオプ ハセガワです。
左右で度数が大きく違ったり、眼病や手術の影響でなどで左右で大きさが違って見えるてしまう事があります。
左右で大きさが違って見えることを「不等像視」といいますが、人の目は機械じゃないので、そんなに完璧にできているわけじゃありませんから多少の誤差があっても割と平気だったりします。
しかし、それが限度を超えると両方の目に映る像を一つにまとめる事が難しくなり、距離感がつかみにくい、疲れる・・・といった不調につながる事があります。
今日ご紹介するS様は両眼とも網膜の手術と白内障の手術を受けられ、疾患についての治療はうまく行ったのですが、その後に不等像視がでてしまい疲労感を感じておられました。
眼鏡には度数を合わせる事と、視線を合わせることの他に、「像の大きさを変える事」ができます。
不等像視は「両眼視」つまり両眼で見たときに起きる問題です。
プラオプ が使う「ZEISS」の視力表は、この「不等像視」を調べることができます。
下の写真のようなコの字が向き合った視標を使いますが・・・
こっちが右目で見たとき。
そしてこっちが左目で見たとき。
一般に普及している視力表にも備わっているのですが単に大きさが違うかどうか?が見れるものなので、どれくらい違うかを具体的に言い表す事が難しい・・・。
でもこの視力表は左右の大きさを変える事ができるので、大きく感じる方を小さくして行って丁度同じに見えたところで、それが何%の違いなのか?を数値で知る事ができます。
S様は不等像視の他にも見え方に影響している要素が他にもありましたが、確かに5%以上の左右差がありました。
一般的には5%以内でダブりなく一つに見る事ができる。3%以内では特に問題ないと言われておりますが、その許容量も個人差があるものです。
しかし、測定ができたとしても、それを矯正することによる違いを感じられなければなりません。
なのでプラオプ には「見える大きさを変えるテストレンズ」があります。
それをお試しいただくと、全体にクッキリする感じがする、ラクに感じるとのことでしたので今回は「見える大きさを変えるレンズ」を使って眼鏡を作ることにいたしました。
この「見える大きさを変えるレンズ」を「サイズレンズ」とか「アニサイクルレンズ」と言います。
これは、そのような製品があるわけではなく、私たち眼鏡士がレンズの湾曲具合、素材の屈折率、レンズの厚みを計算しメーカーに特注する事で作るのですが、大きな問題は「レンズが大変厚くなる」「できるレンズが限られる」「物理的限界があり幾らでも変えらるわけではない」という事です。
例えば近視の度数が左右で違い「不等像視」が起きていたとしたて、それをアニサイクルレンズで合わせようとしたら、度数の強い方をもっと厚くするようになります。
つまり、仕上がった眼鏡は普通はあまりいい見栄えにはなりません。
それでもS様は眼鏡の仕上がりよりも見え方を優先したいとの希望でしたので採用することにしました。
レンズが特殊になる分、フレーム選びにも工夫が必要です。厚くした方のレンズは大変重くなるので大きなフレームでは左右の重量がアンバランスになってしまいます。そしてレンズに付けた強い湾曲に対応できるように横に細長い形は向きません。
そこでフィッティング調整がかなり細かくでき、レンズサイズが小型ですが、鼻幅をカスタムできる「Old&New 1681」を使いました。
で、出来上がりはこちらです。
左の像を2%大きくするために、湾曲を最大の8カーブに、そして中心の厚みを5.5mmにしています。
横から見たらこんな感じ。
レンズの厚みがあるとしても、メガネを掛けていると意外と誰もそんなところは見ていないものです。しかし正面から見たときに見えるフレームとレンズの境目の白い線の太さの違いは結構違和感の原因になったりします。
なのでプラオプ はレンズを削る加工マシーンを最新のものに変えたわけですがその辺の話はこちらを見ていただくとして・・・。
その効果がこの「アニサイクルレンズ」にもしっかりと生かされました。というのは正面から見たらこうだからです。
うん。普通のメガネですね。
そして本日お渡しをしたのですが、左右の大きさに若干の差があるものの、それが分かりにくくなり、具合が良さそうとのご感想でした。
ですが、一時的なものであったり日によって変動したりと、完全な解決はできないかもしれません。しかし、今までよりも少しでも快適になっていただけたら嬉しく思います。
S様には、「同じような悩みを持っている方の参考になれば」と許可を頂きまして、掛けている姿の写真を頂戴いたしました。
横からはこう。
反対側はこう。
正面からはこうです。
瞳の位置もバッチリあってとてもカッコよく仕上がった!と思っております。
S様この度は本当にありがとうございました!
正直に申し上げますと、実際にアニサイクルレンズを使う事は大変に少なく、作成方法や計算方法、留意点などを知っていてもこのように実際に作るのは初めてでした。
なのでS様に教えていただいたようなものです。ありがとうございます!
そしてアドバイスをくださった、眼鏡士仲間のJさんありがとうございました!
しかし思った以上に良い仕上がりになったのは驚きです。
もちろん度数などによりなかなか難しいケースもありますが、問題解決の可能性としてこのような方法もあるという事です。
初めまして。
眼科で検査の仕事をしているのですが最近不等像視を矯正するサイズレンズというのを知り、調べていたところこちらの記事を見つけました。
とても分かりやすい内容で参考になりました。
ありがとうございます。
サイズレンズにはテストレンズというのがあるんですね、知らなかったです。
質問なんですが、コの字テストで不等像視の程度を調べた後、健眼に使うレンズはどのように算出するのでしょうか?
何か計算式があるのでしょうか?
テストレンズで装用者に自覚で確認して合わせていくのでしょうか?
レンズメーカーに注文する際は必須項目や値段など参考になるサイトなど教えていただけますでしょうか。
コメントありがとうございます。
プライオリティ・オプティシャンズです。
『サイズレンズにはテストレンズというのがある・・・。』
テストレンズは自前で作成したものです。
一般に入手できるものではありません。
『コの字テストで不等像視の程度を調べた後、健眼に使うレンズはどのように算出するのでしょうか?』
眼鏡の処方時には、具体的な矯正効果を算出することはあまり意味がありません。
矯正の効果はテストレンズを当ててみた上で不等像視を測定すればいいからです。
実際には現実的な矯正限界のテストレンズを装用させ、不等像視の程度を見るよりも、日常視を体験させて今まで感じていた不具合が解消されているかどうか?を判断材料としています。
『何か計算式があるのでしょうか?』
あります。
厚レンズによる倍率変化の計算式があり、それをエクセルによる自動計算で利用しています。
私たちは眼鏡レンズの専門家として、あらゆる光学的作用を幾何光学によって算出して利用しています。
これはそのうちの一つです。
『テストレンズで装用者に自覚で確認して合わせていくのでしょうか?』
眼鏡での不等像視への対応は、眼鏡の物理的限界の範囲内でのみ行えるものです。
矯正の可能な範囲は屈折度数が大きいほど広くなります。
しかし、不等像視だけに着目しても別の問題が発生します。それは第一眼位以外のところで見た場合に
視線の位置がズレることで、正面以外で融像に対する負担が増すことです。
それが限界を越えれば融像に問題が生じるでしょうし、別の愁訴の原因にもなるでしょう。
物理的な要素と、両眼視に対する影響などを考えると約3.5%位の倍率変化が(個人差があるとは思いますが)限界のように感じております。
実際にはアニサイクルを使う事例の不等像視は10%以上の差があるような場合が多く、
被験者自身がテストレンズを当ててみて現状よりもメリットを感じデメリットを上回ることで処方を望まれるケースにおいてのみです。
不等像視がある場合の全てに対応するわけではありません。
『レンズメーカーに注文する際は必須項目や値段など参考になるサイトなど教えていただけますでしょうか。』
注文に際し、左右で屈折率を変える事、レンズカーブの指定、中心肉厚の指定、が必要です。
アニサイクルレンズという製品があるわけではありません。
利用できるレンズを調べ、眼鏡店側が計算して注文をするものです。
ですので具体的なレンズの価格はありません。ですが当店の実績では左右1組で6万円くらいの予算を考えていただく必要があります。価格で上限が決まれば選択肢が狭くなってしまうからです。
しかし、不等像視の矯正はレンズだけで行うわけではありません。左右の頂点間距離に差をつける事など
眼鏡のフィティングも非常に重要な要素だからです。なぜなら頂点間距離の変化は眼球光学系と眼鏡レンズの組み合わせによる主点の位置を変化させることになり、像倍率に大きな影響を与えるからです。
強度数であればこれだけである程度の効果を発揮し、アニサイクルを使用しなくてもよい場合もあります。(仮枠で球面を入れるスロットを左右で変えることで矯正効果を確認できます)
つまりアニサイクルレンズは眼鏡の処方値だけでは成り立ちません。レンズの製品知識、光学的知識、そしてそれに基づくフィッティング技術とが組み合わさってなされるものだからです。
参考になるサイトは存じ上げませんが、参考文献はございます。
「眼鏡光学出版」が発行する「科学的な眼鏡調製」は眼鏡光学について広く詳しく網羅しております。